2023年8月4日金曜日

問題だらけだったフラットタンカー。

長きに渡ってお預かりして作業していた
英国の戦前車New Hadsonのロングタンク。
この時代のタンクは仕切りで分けられて
オイルタンクとぺトロールタンクが一緒になってるものが多く、
その独特の形状から「フラットタンカー」と呼ばれています。

お預かり時オーナー様より
「あちこち水膨れがあるのでガソリン漏れてると思います」
んではチェックしていきます。




うん、芳しい(笑)
という事で先ずは水疱の場所地金まで剥離してチェック。
ん?

んんっ?

水疱の半分は剥いてもガソリン臭しない。
これはガス漏れ原因の水疱ではないのか?
というよりこのタンク、めちゃくちゃ塗り直しされてるけど
1回たりとも全剥離されず上から畳み掛けられてるなぁ。。。

シフターが入るこの場所は剥いたらガソリン臭がした。
剥いた塗膜も湿ってる。
ここは確実に漏れてますね。


リークチェックして漏れ箇所特定。
既存のハンダ溶かさずに新たに流し込むのは中々難しいんですが
どうにか埋めてみる。
この時代のタンクは未だ溶接機が存在しなかった時代のモノなので
ほぼハンダで溶着されています。
これ修復できる人がもう減ってきているので
何でだかウチにはフラットタンカーが集うワケです(苦笑)

リークチェックして一応大丈夫だったんですが、
ハンダ盛りしてて結構違和感感じてまして。
通常これくらいの熱量ならばギリギリで溶かし合って一体化、みたいな
ハンダ溶着のタイミングってのがあるんですが、
なんだかこのタンク、それが箇所によっては巧くいかない。
何だかヤニ出てきて沸いちゃう。
「これはもしかして」と思って一度空焚きしてみた。
液体内包しないで焚くから100℃ちょい超える熱量。
そしたらタンク底面のハンダ、沸く沸く(苦笑)
ああぁ、これ電工用のニス入りハンダで修復してやがる。
沸点低いから簡単に新しいハンダ載るんですけど、
ニス(ヤニ)含有だからそれがガソリンで溶ける。
その隙間つたって染み出て来てる。
鈑金で使うハンダはヤニ無しの鉛と錫の割合が
通称「ナナサン」と呼ばれるものなのですが、
ナナサンは同じハンダでも沸点高い。
ヤニ入りの安価で適当な電気ハンダで修正されてたから
走行中のEg熱とかでヤニ溶けてガス漏ってたんすね。

という事でわざと高熱掛けてヤニハンダ滴り落として
その部分にナナサン流し込みました。

ところでこのフラットタンカー、
コック穴である事は間違いないのだが
やたらとそのネジ穴がある。
UKインチ対応のダミーコックはウチにも流石にあるにはあるが、
まぁあっても最大2個までだったりする。

同じ物3個もダミー持ってないwww
1箇所はゴム買ってきて粗削りで栓こさえて対応する。


今年の冬はこのタンク、
ほぼウチのストーブの上で炙られておりました。

さ、ようやくリークチェックもクリアしたので
下地剥いて鈑金していきましょ・・・うぐええぇぇぇぇ・・・・・

とんでもねぇ量のパテ
_(┐「ε:)_

流石はジョージコックスのラバーソウルの国、英国。
凄い量の厚底だなぁ(棒)
3面剥いたらブースの中クリープ瓶5本ぶちまけたみたいになった。

粉塵まみれになりながらようやく剥き終える。
チェックするとそこまで酷い凹みそんなにない。

英国人め、この腐食錆無かった事にしたくて
厚底パテで覆って事終わらせようとしやがった。

とはいえハンダ溶着なのでブラスト難しいのは真実。
ブラストの力でハンダ削れちゃいますしね。
でもパテで蓋しちゃイカン。
今回はケミカルの力に協力仰ぎます。

黒錆転化剤でガンブルー化目指します。
根気よく塗っては削って赤錆残ってる箇所また転化剤塗って。

この作業だけで1か月です。
オーナー様より「時間は全然気にしてないのでじっくり対峙してください」と
有難い心得たお言葉戴いておりましたので
こちらも慌てずじっくり作業繰り返しました。
最近はこちらの作業をこうして深くご理解戴いているユーザー様も多く、
こちらとしても本当に助かります。
10年位前ですと「外装一式旧車ですしお時間かかりますよ」
と言ったにもかかわらず時間かかるとバチクソに逆ギレする
旧車の下地処理を理解してない人ちょびっといたりしましたが、
最近はホントに助かります。

今となってはそういう逆ギレ野郎の外装なんか
プラパーツの爪折れのまま塗ってやって
そのまんま困る状態で渡してやれば良かったと思いますw

こうしてようやく下地が終わりました。
サフェの上にパテ入ってるのは
今回地金に錆転化剤使用しているので
先ず黒錆転化完了したらすぐにサフェ、
そこから地金出さないように凹みにパテ処理だからです。
勿論この後今一度サフェ入れます。

フロント少しパテ処理必要でしたが

正直全体的には凹み修正、こんなモンだったんです、このタンク。

あんだけパテ盛った理由が錆び隠し以外にありません。
事実このタンクかなり軽量化しました(笑)
そして真鍮のベルト部分含めエッジがしっかり存在してます。

でまぁベースカラーの黒吹いて

ライン引っ張ってトランスファー貼って定着待って
毎日パラ吹き繰り返してじっくりトランスファーウレタンで埋めて

こっちはお預かりがデカールだったので安心安全。
段差はデカールだから埋められませんけども。

このトランスファー、
20年対峙格闘し続けてますが
以前として定着成功・失敗の理由が何なのかさっぱり理解らない。
今回も片面無事埋まりましたが片面失敗(縮れた)。
急遽いつもの英国のショップより取り寄せてリトライ。
それは無事にウレタンで埋まりました。
でも成功した理由はまるでもってわかりませんwww

因みにその英国のサイト、
トランスファーの貼り方がHow toで掲載されてます。
貼りっぱなしのメンテナンスやエナメルで閉じ込める方法、
水性やアクリルは絶対縮れる事、
そして「世界的に稀にプロが2液ウレタンで閉じ込める技術を確立してる」と。
「これ、主にお前だかんな」言われましたが、
挑むにあたって私が毎回数セット発注してる事記載してない。
いいか、無事に閉じ込めた理由プロの私にもわからないんだw
リスクと数セット容易で臨んでる事も書いてくれ(笑)

こうして長きに渡って作業して来たプロジェクト、
ようやく全て完了です。




S様、本当に永らくお待たせしました。
これだけのレストア内容故に
技術料も結構ゴキゲンな金額ではありましたが
それも快く応じてくださり
ホント感謝しております。

週明けに発送しますので
実車装着の際はお写真拝見させてくださいまし♪