2020年11月16日月曜日

ルーツを追った1人の男の物語。

とある方よりオファーが来た。
「アルミタンクが破れたみたいでガソリンが滲んでいます。
これを機にカスタムペイントをしたいと思っております。」

はるばる九州から送られてきたアルミタンク、
BSA Goldstarの社外アルミタンク。
それではレストア&カスタムペイント開始しましょうか。

先ずは外注でツネちゃんにTig溶接を依頼。
きっちり治ってリークテストもOKなので
んではいよいよペイントの下準備に入ります。
全部黒だけど3回塗られてますね、貴方は。
もしかしたらどえらい修復歴とか出てくるかもです。
それはそれでしっかり治しますが、ドキドキしますw

ぐっは!何すかこのパテの壮大な盛りっぷり!!
まさか過去に大転倒とかしてアルミボッコボコ⁉

あ、あれ?
思ってた程酷くないぞ?
何だったんだろ、あのモリモリのパテは。

ま、オーナーさん出来るだけ余計な物剥ぎ取ってくれって話なので
まぁ結果オーライという事で。

んんん?
反対側の右、やけにエッジが立ってるなぁ。
パテ盛るならこっちに盛って丸み帯びさせるのがセオリーなんだけどなぁ。
(´・ω・`)?

まぁ左の方が綺麗なアール描いていて理想的よね。

こっちのエッジ、お世辞にも上手なメタルワークじゃないものね(苦笑)
一応オーナーさんに画像送って相談。
どっちのアールで行きます?ってやりとりしてる最中にある事に気付く。
「ん!待てよ!!左パテたっぷり盛ってたって事は!!」

エッジの位置が足りてないから左盛ったのですか、そうですかww
これも含めてオーナーさんに報告。
オーナーさんより男前なカッコいい方法を提示される。

「これがこの当時のプロダクションの精一杯だったんでしょうから、
位置違いはそのままで仕上げるとかは無し、ですかね?」

おおぉ、ある意味ヒストリック大切にしてて良いと思います!
なのでこのまま「なり」で綺麗にしていきます。

因みに何回目のリペイントでされたのかは不明ですが、
この台座まで黒塗りされていたエノットキャップ。
アルミだし塗られている理由ないと思いますので
(エノットキャップのこの部分塗ってる車体ほぼ無いです)、
ここは丁寧に剥離剤で塗装剥がしました。

あまりに酷い凹み以外は極力パテを使わない方針で。
とはいえハンドメイドのアルミタンクだとやはり微妙に凹凸あるので、
サフェーサーを1度入れてざっくり砥ぎ上げて凹凸を減らし、
もう一度サフェを入れて再び砥ぎました。
ビンテージな旧車なのでショーカーの様なパーフェクト鏡面にはしませんが、
これでかなり映り込みには耐え得るベースになったでしょう。

黒に塗ってクリア入れて、数日完全硬化させたらいよいよエンブレム。
んでは参りますかね。

このタンク、当時Taylor Dowというファクトリーが製作したそうで。
そういう意味では名車ゴールドスターではありますが
当時物の「カスタム車両」だとも言えます。

Taylor Dow,Stella D' Oro Racing Petrol Tank.
ほほぅ、これが当時の広告なんすね~
「このStalla D' Oroを文字でエンブレム下に入れてもらえますか?」
了解しました、ではエンブレムに馴染む様にゴールドでいれましょうか。

エンブレム内はこのピンバッジをモチーフにインストールする事に決定。
ではやっていきますね。

今回は蒔絵で箔をやろうと思いますので、
色違い金箔を3色用意します。

先ず中を赤に塗ってマスキング、では参りましょう。

蒔絵と言ってもモザイク箔ですね。
色違いの箔をランダムにモザイク状に押して貼っていきます。
その際指で擦り上げて敢えてクラックを発生させて、
そのクラックに色違いの箔を押し付けて定着させていきます。

ここでオーナーさんから連絡。
「蒔絵と聞いていたので金粉でやると思ってたんですが」
あ、いえいえ。これも蒔絵です。

オーナーさんに「蒔絵でやりますね」で送った参照画像がこれ。
以前ケンタのところで塗った中世ヨーロッパの活版印刷風のタンクね。

オーナーさん、金粉のものを蒔絵を思ってたみたいで。
金粉もモザイクも大きさ違いで蒔絵で同じではあるのです。
説明って難しいですね(苦笑)
こっちは先端に向かってかすれていく画風だったので金粉でかすれさせてますが、

BSAの場合は先端が「破綻」していないので、
モザイク箔を選んだのです。
更にこの様に放射線に影もありますので、
それをランダムですが箔にも印影付けようかという次第。
オーナーさん、納得してくださいました(笑)

「了解です、ただエンブレム中は赤じゃなくて黒が良かったんですけども」
あ、ピンバッジモチーフだから疑わず赤にしちゃいました(苦笑)
これはディスカッション不足です、すみません。

で、一旦またクリア入れて完全硬化させて中を黒にする(笑)
で、文字入れ。こっちは1枚箔で。

でもって先に仕上がったGBタンク同様、フリーハンドで放射線を描き込む。
そしてエンブレム下に文字入れ。
当たり前だが左右w


いよいよ最終仕上げのクリアを入れて磨き上げて完成です。
BSA Goldstar、Taylor Dow製のStalla D' Oroタンク。



左右エッジ違いは敢えてそのまま仕上げました。

うん、上品に収まったと思います。



ヒストリックをしっかり追って敬意を表して仕上げたペイント。
ペインターの名前なんざどうでもいいんですよ。
英国より遠く離れた極東の国に
それを追い求めて成し得た1人の熱い魂の男、
BSAのオーナーがいるんだって事が英国にも届けば、
それだけでいい、って話です♪

T様、この度は壮大なロマン溢れるオーダー、
ありがとうございました。
お力添えとなれたのであれば是幸いです。





で、英国とか言ってる割には流すのはボストンパンクwww