2022年10月3日月曜日

Kings Of Nuthin'。

4年前の今日、SNSにこんな画像が上がって来た。

雑誌取材でブース内の撮影をする際、
溶剤と塗料撒き散らすのでポージングだけの「やらせ」で撮る事が多いのだが、
この4年前の時の小見カメラマンは違いました。
「真実を撮ります。
構わず普段通り塗装作業しちゃってください。」

カメラのレンズに塗料ミストが付着するリスクもためらわず、
肺に溶剤が這入ってしまう事も躊躇せず
(カメラマン用の防毒マスクは用意していませんし)、
小見さんはガン吹きする私の対角線上に常に自分を移動させ、
決して私の動線に絡むことなく
つぶさにレンズを私に向け続けた。

職務に果敢に挑んで頂いたおかげで
私もこうして自分のブース内での動きや視線、
ガン捌きを客観的に観る貴重な見識を得る事が出来ました。

まるでブース内にロバート・キャパがいるかの様な
互いに真剣勝負そのものの時間に
全身の毛穴が開くが如き感覚を覚えたのを思い出します。

折角なので自分含め備忘録として。
ペイント対象物はKAWASAKIのW1です。

マスキングしてあるオレンジと白の境界線の見切りを
極限まで段差なく綺麗に仕上げる為に
その部分の黒は必要最小限で済む様に載せていく。
これのより最後の磨きで段差落としやすくなり鏡面仕上げが可能となります。
逆に純正っぽい仕上げの場合は段差かなり出して仕上げます。
この辺はオーナーさんのご希望で塗装方法代えます。

裏側は燃料コックやフック。溶接のベロなので凹凸が激しい為
ガンは絶えず四方に動かして確実に色を載せます。
タンク裏は形状によっては色もクリアも載せるのが困難な場合もありますが、
私は裏側は出来る限り塗料もクリアも載せるように心がけてます。
ケースによっては垂らしてでもしっかり載せます。
塗装の本来のするべき仕事は「防錆」でもありますので。

給油口周辺やタンクマウントの穴部分は乱気流起きやすく
ずぼらなガン捌きだと色ノリがしっかり出来ていない事も起こり得るので
乱気流防止でエア圧かなり下げてパターンも拡げず絞って
その部分ピンポイントで狙って目視確認しながら色を入れます。

無意識でしたがこの日は左手でホース引き寄せていますね。
普段はホースを背中に回している事が多いです。
無論これはペイント対象物にホースがぶつからない様にする為です。
次の動線でホースが絡まない様にする為でもあります。
多分無意識ですけどこの日はブースに1人ではなかったので
小見カメラマンに配慮して背中回しのオーバーアクションを避けたんだと思います。

全ての対象物は色の載せにくい裏側からアプローチします。
表面の塗り肌を乱さない為の予防策でもあります。

4輪のペイントが平面に対してが多い事に比べると
2輪やヘルメットは360度の立体である事が殆どです。
塗り始めと塗り終わりでどうガンを動かすか
事前に頭の中でシュミレーションしていないと
塗り過ぎの場所と塗膜の薄い場所が生じてしまいます。
どこでどう塗装をオーバーラップさせるかの把握が
綺麗な仕上がりの重要な鍵です。

360度なのでとにかく動き回ります。
でもなるべくブースの換気ファンの方向に立つ様に心掛けます。
空気の引き込み側にあまり長い時間自分が立つ事はしないようにします。
何故ならペイント中に付着してしまう埃やブツは
その8割が自分から出たものである事が多いからです。
ですので空気の流れの風上にはなるべく立たない様に動く事が大切です。
とはいえ360度なのでブースの中に雨乞いでもしてんのかって位
対象物の周りをかなり動き回ります(笑)

このつぶさな切り取られた瞬間の画像たち、
完全にブース内での対峙の時間は己一人であると認識していましたので、
まるでジャンル違いのミュージシャンとジャムセッションしているみたいで
物凄いドライブ感でピリピリした空気に凄く興奮しました。

あの日ガチで私と向き合ってファインダーを向け続けた小見カメラマン、
本当に貴重な経験をありがとうございました。